パリ・ポンピドゥーセンター前の広場に太鼓の轟音が響いた瞬間、鳥たちが一斉に空へ舞い上がった。そしてまるでその道を切り開くように、ビヨンセとJAY-Zがフロントロウへと歩を進めた。

ビヨンセが2026年春夏ルイ・ヴィトン メンズコレクションを鑑賞 AP Photo / Michel Euler

ファレル・ウィリアムスによるルイ・ヴィトンの最新ショーは、いまを体現するカルチャー地図そのもの。ブラッドリー・クーパー、J-Hope、Karol G、PinkPanthress、Future、Pusha T、ジャクソン・ワン、Bambam、Mason Thames、Miles Caton、D’Pharaoh Woon-A-Tai、マルコム・ワシントン、Jalen Ramsey、A$AP Nastと、超豪華な面々が名を連ねた。ファレル体制のヴィトンが持つ引力に疑いの余地はなかった。

今回のランウェイは、ただのファッションショーではない。ファレルはパリからムンバイへ、伝統と未来を繋ぐカルチャールートを描き出す。モダン・ダンディズムを重ね合わせた、2026年のヴィトン・マンの姿を太陽の下に提示した。

舞台は、建築家ビジョイ・ジェイン率いるStudio Mumbaiとのコラボレーションで生まれた「すごろく」型のセット。ポンピドゥーセンターのアイコニックな配管がSF的な背景として機能し、旅というブランドの精神を、目的地ではなく“動き”として再定義した。上へ、下へ、横へ、太陽へ向かって。

服はまさに“自分のビート”で進む。インドの厚底サンダル、マルチストライプのショーツ、モンスーンの風を思わせる袖が膨らんだプレッピーシャツ。陽光を受けて輝くシルクのカーゴパンツ、ピンストライプのパファーはボリウッド的なキッチュさを纏う。クリケットジャージは宝石のような襟やラインストーンをまとい、青みがかった真珠のようなレザージャケットがムンバイ映画のセットを彷彿とさせる。英領時代のクラシックさと、パリのブルヴァールの気配が同居するテーラリングも圧巻だった。

2026年春夏ルイ・ヴィトン メンズコレクションを着用 AP Photo/Michel Euler

カルチャーがぶつかり合う感覚。それこそがこのコレクションの核。ファレルのヴィトンは、地球規模のワンダーラスト(旅への欲望)を表現するムードボード。チェックのシルク、ミスマッチなストライプ、冒険で色褪せたようなトロンプルイユの布地――すべてが“今この瞬間”を映し出す。

この希望に満ちたグローバリズムは、決して無邪気ではない。カオスの中に、確かな計算がある。KENZOのNigo(元コラボ相手)から、現代インドの職人技まで。手刺繍の蛇がシャツを這い、サンダルウッドの香るリネンがラジャスタンの夏を呼び起こす。“世界市民”という理想は、リアルなポリティクスでもある。

ヴィトンにおいて、スタイルを決定づけるのはいつだってアクセサリーだ。今季も、宝石のようなサンダルやゴールドのネックレスが、インスタ映えと職人技の両面を兼ね備えた“パスポート・スタンプ”として登場。TikTok世代へのアピールであると同時に、二度見する者にこそ報いがあるディテールの数々。

ただし、ひとつ苦言があるとすれば、リファレンスの多層性が時にメッセージをかき消す点だろう。モチーフの上にモチーフ、カラーの上にカラー、喜びの上にさらに喜びを重ねる。その結果、統一感が酩酊するようなディオニュソス的エネルギーに包まれる。でも、それがまさに狙いなのかもしれない。混乱の時代に、ヴィトン・マンは、輝き、遊び、はぐらかす。

デザイナー、ファレル・ウィリアムス AP Photo / Michel Euler

LVMHは2024年、売上高847億ユーロという記録を打ち立てた。中核を担うのが、このルイ・ヴィトン。世界に6,300以上の店舗、時価総額はおよそ4,550億ドル。規模も影響力も、比肩する存在はない。

最後のルックがポンピドゥーを一周し、鳥たちが再び降り立った瞬間、それはただのショーではなく、宣言だった。「世界はゲーム盤。はしごは本物。ルイ・ヴィトンは、いまなおサイコロを転がし続けている」

Louis Vuitton Spring-Summer 2026 collection AP Photo / Michel Euler


By THOMAS ADAMSON AP Culture Writer

PARIS(AP)