南アフリカ出身の服飾デザイナー、テベ・マググ(Thebe Magugu)の活躍が止まらない。2016年、ヨハネスブルグの服飾専門学校を卒業するや自身の名を冠したブランドを立ち上げ、2019年には若手デザイナーの登竜門として知られる『LVMHプライズ』のグランプリを受賞。以来、ディオールやアディダス、カナダグースといった世界的なブランドとの協業を次々と実現し、著名人の祭典『メット・ガラ』のレッドカーペットやファッション誌の表紙でも存在感を放ってきた。
近年のマググは、衣服の枠を超えた空間づくりにも力を注ぐ。2024年5月、ヨハネスブルグに直営店『マググ・ハウス』を構えたのを皮切りに、今年2月にはケープタウンの高級ホテルの敷地内にも新店舗を開業。隣接するスイートルームの内装も手がけた。本記事では、これらの空間を紹介しながら、南アフリカの文化遺産を現代の感性で鮮やかに表現するマググの世界に迫る。

高級ホテルの敷地内に設けられたアート空間
ケープタウンにあるマググの空間は、この街を代表する歴史ある高級ホテル、マウント・ネルソンの敷地内にオープン。1899年創業のこのホテルは英国の客船会社のオーナーが、ロンドンからケープタウンに到着するファーストクラスの乗客のために設計した高級ホテル。1918年、第一次世界大戦の終戦を機して、平和と喜びを象徴するベビーピンク色に塗装されたこのホテルは、現在もその特徴的な色がシンボルとなっている。

敷地内のマググ・ハウスは、独立したアートの場として機能する。初回の展覧会では、南アフリカを代表するふたりの女性作家の作品をフィーチャーした。ジジポ・ポスワは大型のブロンズ彫刻で知られ、アフリカ女性の身体性や精神性を力強く表現する。ザネレ・ムホリは写真家、ビジュアル活動家でもあり、LGBTQの権利と黒人女性の尊厳をテーマに据えた作品群で国際的な評価を確立している。アフリカ女性を讃えるというテーマは、マググ自身が長年デザインの中心に置いてきた思想と深く共鳴する。

敷地内には、マググが南アフリカのインテリアデザイン事務所スタジオ・ランドと2年かけて仕上げた特別なスイートルームもオープン。スタジオ・ランドは、ヨハネスブルグのマググ・ハウスの什器を手がけたウェイランツの設計部門が母体だ。
スイートルームの内部にはマンガリソ・ンズザ(Mmangaliso Nzuza)、ロレンツォ・プラーチェ(Lorenzo Plaatjies)、ルラマ・ウォルフ(Lulama Wolf)、バネレ・コーザ(Banele Khoza)、ザンディレ・ツァバラ(Zandile Tshabalala)、トレヴァー・スティールマン(Trevor Stuurman)らの作品が壁を彩る。いずれも南アフリカの若手・中堅作家であり、マググが日頃から交流するクリエイティブな仲間たち。スイートルームに飾られる絵画や彫刻は定期的に入れ替えられる予定だ。
室内のデザインは、ベッドや食卓、壁紙や床タイルにいたるまで、すべてが特注品で構成されている。デザインのキーワードは、マググ自身が「アフロ・イングリッシュ」と呼ぶ美意識だ。コロニアル建築の特徴を否定するのではなく、その骨格を敬いながら、アフリカの文化の要素をうまく取り入れている。

南アフリカの草原や丘陵を描いたパノラマ壁画は、内陸の草地からケープの断崖までを一筆書きのような線描で旅させる。床にはピートと緑を混じえたオリジナルカラーが用いられ、テクスチャーは石や木といった自然素材が取り入れられた。南アフリカのバソト族の帽子から着想を得た照明器具、伝統的な土器の曲線を写した椅子、さらにマググのファッションに特徴的なプリーツのデザインがインテリアデザインにもあしらわれている。

イギリス式邸宅を改装した「マググ・ハウス」
ヨハネスブルグの『マググ・ハウス』は、ケープタウンの空間とはまた違ったプライベートな邸宅といった雰囲気を持つ。ヨハネスブルグ有数の商業地区ローズバンクからほど近い場所にありながら、マググ・ハウスが立つダンケルドは木々の多い閑静な住宅街。都市の喧騒をほどよく遮断した、この立地そのものが、ブランドの世界観の入口となっている。
敷地面積は約3,000平米。築1931年のイギリス式邸宅はかつて、3世代にわたり同じ家族が住まいとして受け継いできた建物だ。外観の印象は端整で控えめ。白を基調とした壁に、玄関や窓枠のシャープな黒が映え、シンプルな高級感がある。
しかし、一歩なかに入ると外観の落ち着きとは対照的な色彩の豊かさが出迎える。1階の壁はピスタチオ色に塗られ、随所にテラコッタが差し色として効いている。壁面には南アフリカ人のビジュアルアーティスト、ネルソン・マカモ(Nelson Makamo)や写真家トレヴァー・スティールマン(Trevor Stuurman)の作品が掛けられ、ディオールやカナダグースとの限定コレクションが展示される。什器はすべて南アフリカの家具・インテリアブランド、ウェイランツとの協業による特注品で、空間に統一感と温かみをもたらしている。

1階は、展示販売室、試着室、応接室、2つの小ギャラリー、そして閲覧室で構成される。いずれの空間にも心地よい椅子や長椅子が置かれ、衣服を買いに来るというより、時間をかけて訪れる場所として設計されていることが伝わる。試着室もゆったりとした広さで、アットホームな落ち着きがある。敷地内にはブランドのオフィスと仕立て工房があり、お直しやセミオーダーへの対応もここで行われる。

陳列される衣服は既製品が中心だが、点数は意図的に絞られており、取り扱い品目は20前後。独特の生地づかいとシルエット、南アフリカの文化や紋様に着想を得た布地のデザインが持ちいられたユニセックスのトップス、ボトムス、ドレス、ポンチョなどが並ぶ。
ファッションからインテリア空間へとその活躍の場を広げているテベ・マググ。「マググ・ハウス」では、衣服にも空間にも様々な素材や質感が生かされており、アフリカの文化や記憶を表現し続けるというマググのブレないこだわりと独自のクリエイティビティが、これまで以上にはっきりと伝わってきた。


ベルモントホテル提供写真(ケープタウン)
Belmond Brand Portal
Maki Nakata
Asian Afrofuturist
アフリカ視点の発信とアドバイザリーを行う。アフリカ・欧州を中心に世界各都市を訪問し、主にクリエイティブ業界の取材、協業、コンセプトデザインなども手がける。『WIRED』日本版、『NEUT』『AXIS』『Forbes Japan』『Business Insider Japan』『Nataal』などで執筆を行う。IG: @maki8383