ソーシャルメディアがまだ存在しなかった時代、世界中の若き表現者たちが集い、未知の才能と出会う場があった。「tinyvices.com」。写真家、キュレーター、エディターとして活動するTim Barberが2005年に立ち上げたこのプラットフォームは、2011年までのあいだに600名以上の写真家やアーティストを紹介し、日々何千人もの訪問者を惹きつける、いわば“伝説的オンライン・ハブ”として機能していた。

昨年その20周年を機に、100名以上のアーティストを集めたアーカイヴ展がニューヨークで開催されるとともに、新たなウェブサイト「tinyvicesarchive.com」がローンチ。アーカイヴはオンライン上で公開され、当時の空気感や作品群を辿ることができる。

そして、今回そのアーカイヴ展が日本にも上陸。東京・神宮前のSO1で4月19日(日)まで開催され、舞台は京都へと移り、Urban Research Kyotoにて4月17日(金)から5月6日(水・祝)まで巡回する。

20周年を記念したこのアーカイブ展覧会を、東京と京都で見る機会があって、本当に嬉しいです。昨年のニューヨークの展覧会はどうでしたか?

とてもいい経験だったし、今回の展示はギャラリー全体を使った大規模なものになった。空間自体も本当に美しくて、とにかく広くて、圧倒されるような場所だったよ。

このプロジェクトは、実は15年近く止めていたんだ。だから今回の展示は、長い間連絡を取っていなかった人たちともう一度つながり直すような感覚があったし、しばらく見返していなかった作品たちと改めて向き合う時間でもあった。

同時に、それはかつてこのプロジェクトに取り組んでいた頃の“感覚”や“勘”をもう一度呼び起こすような体験でもあって。ずっと使っていなかった筋肉を、もう一度動かすような感覚に近いかな。とにかく楽しかったし、すごくポジティブな時間だった。

素敵ですね。展示にはたくさんの人が集まったんですね。

本当に楽しかったし、単なる展示以上のものだったと思う。人が持ち込むエネルギーがあって、それが空間全体を満たしていた。オープニングには何百人も来て、会期中もずっと混み合っていた。ニューヨークのすごく人通りの多い通りに面していて、正面に大きな窓があるから、通りすがりの人もどんどん入ってくるような場所なんだ。

今回の展示をつくるとき、最初にあったイメージはどんなものでしたか?

今回の展示は、2005年に始めたプロジェクトの20周年を記念するものでもある。最初は、自分がいいと思うアートを紹介・共有するためのシンプルなウェブサイトだった。そこから徐々に発展して、オンラインでやっていたことをベースに、実際のギャラリー展示をキュレーションするようになっていった。

この展示は、それぞれの作品というよりも、作品同士の“あいだ”に生まれるものを見せている感覚はありますか?

体験の仕方は、その人が事前に何を知っているかによって変わると思う。
もしウェブサイトを知っていれば、それを前提に見ることになるし、知らなければ、より直感的に、ひとつひとつのイメージに反応していくことになる。自分としては、イメージ同士の関係性を考えるのが好きなんだ。だからこのインスタレーションも、そういう見方ができるような構成にしている。

観る側は少し距離を取って、視線を自由に動かしながら、イメージ同士の関係を行き来できる。そのつながりは、はっきり見えるものもあれば、すごく繊細なものや、無意識的に感じるものもある。でも、自分にとって写真を見るというのは、もともとそういう体験なんだよね。一枚だけを切り取って見ることは、むしろ少ない。

この参加作家たちは、ひとつのコミュニティだと感じますか?それとも時代のアーカイブのような感覚に近いですか?

このプロジェクトは、どちらかというと“アーカイブ”に近いものだと思っている。
それが一番しっくりくる言い方かな。すごくグローバルで、いろんな場所の人が関わっているんだけど、その中に自然と小さなコミュニティも生まれている。
ただ面白いのは、そこにいる人たち同士が必ずしも互いを知っているわけではない、という点で。

キュレーターと写真家の関係において、一番大切にしていることは何ですか?

長い時間をかけて、人のクリエイティブに関わっていくこと。それを見て、考えて、言葉にしていくこと。そういう積み重ねの中で生まれる関係性は、とても特別なものだと思う。

何が一番大事かと聞かれると難しいけど、ただ、それぞれがユニークで、それぞれに固有の価値がある。自分はアートも好きだし、人も好きだから、人と一緒にいて、話して、何かを考える時間そのものが好きなんだと思う。

この展示の中で、“説明できないけど気になってしまう写真”はありますか?

全部だね(笑)自分はあまり、「なぜそれが好きなのか」を説明しようとはしない。というより、意識的にそうしないようにしている。なぜなら、それって本質的にはあまり重要じゃないから。自分がそれを感じて、選んで、提示する。その行為自体で十分だと思っている。

理由を説明する必要はないし、むしろ観る人がそれぞれ自分なりの解釈を持てばいい。誰かに「こう感じるべきだ」と押し付けたいわけでもないし、好きかどうかを決めるのはあくまでその人自身だから。

展示されている写真は、特にどの時代に撮られたもの、などの年代はありますか?

今回の展示の作品の多くは、ウェブサイトを運営していたある特定の時期に属している。だからある意味では、その時代の空気をそのまま内包しているとも言える。

ニューヨークの街の変化について教えてください。

ニューヨークについては……すごく大きな問いだよね。自分はもう住んでいないから、適任ではないかもしれないけど、やっぱり以前とはかなり変わったと感じる。

若い人にとっては、今でも魅力的な場所ではあると思う。でも、自分が若かった頃と同じ感覚かというと、そうではない。とにかく物価が上がっていて、そこにいられる人の層が変わってきている。それは当然、カルチャーにも影響を与える。ただ、「何が良い場所なのか」という明確な答えはないと思う。ルールもなくて、いろんな形で物事は成立するし、いろんな形で面白さや美しさは生まれるものだから。

今の若い写真家に感じる面白さや、逆に、少し危ういと感じる流れってありますか?

ソーシャルメディアについては、正直かなりネガティブに感じている。すごく大雑把な言い方だけど、人の脳にとってあまり良くないと思う。アーティストにとっても、若い人にとっても。どうしても物事を平坦化してしまうし、表層的にしてしまう。人を浅くしてしまう側面がある。もし今の構造から抜け出せるなら、それはポジティブな変化になると思う。


ただ、人が誰かとつながりたいという欲求自体はなくならない。問題はプラットフォームの設計、つまりインセンティブの仕組みにある。ただ正直、それが変わるとはあまり思っていない。むしろ悪化していく可能性すらある。

今回の展示に合わせたプレイリストはティムさんが作ったと聞きました。どんなプレイリストになりましたか?

展示で流していた音楽については、かなり前から作り始めたプレイリストで、ずっと追加し続けているものなんだ。時間をかけて自然に育ってきたもの、という感覚に近い。

写真を見るときや撮るとき、音楽とのつながりを感じることはありますか?

この展示は、個々のイメージの集まりであると同時に、それらの関係性そのものを見せるものでもある。それはある意味、音楽に近い感覚でもあって。人によって感じ方は違うけど、いわゆる“ヴァイブ”とか、“空気感”に近いもの。言葉にするのは難しいけど、確かに存在しているもの。エネルギーのようなものだと思う。音楽も同じで、本質的にはエネルギーの体験なんだ。

今回の展示で作品を見ていると、音が聴こえてきそうな作品ばかりでした。

それは共感覚のような感覚にも近いかもしれないね。音を聴いて色が見えたり、色を見て音を感じたりするような。感覚同士が交差して、互いに影響し合う状態。

最近はどんな音楽をよく聴いていますか?

3歳の息子がいるんだけど、彼にいろんな音楽を聴かせるのがすごく面白い。初めての音に対する反応がとても純粋で、あるときスピーカーに頭をくっつけるようにして音を聴いていたんだ。まるで音に物理的に近づこうとしているみたいで、それがすごく印象的だった。しかもかなり激しい音楽だったから、なおさら驚いたよ。

子どもがいることで、普段は当たり前に受け流してしまうものを、もう一度新鮮な感覚で体験できるようになる。それはすごく大きな変化だと思う。ちなみに彼は、ボブ・マーリーが好きなんだ。

プレイリストを作ることは、Timさんにとってどのような意味を持ちますか?

プレイリストを作ることも、自分にとって大切な行為になっている。最初は友人と共有するためだったけど、今は人とつながるための手段のひとつになっている。

そしてさっきの話に戻るけど、アルゴリズムの問題。自分たちはそれを使っているけど、同時にそれに影響もされている。だからこそ、自分は“人間的なアルゴリズム”に戻りたいと思っている。Spotifyに何を聴くか決められるのではなく、誰かから直接教えてもらいたい。たとえその人の趣味がアルゴリズムの影響を受けていたとしても、それでも人を介して届くことに意味がある。

つまり、自分にとって大事なのは、アルゴリズム的なレコメンドから離れて、人と人とのあいだで共有される体験に立ち返ることなんだ。


TIM BARBER
ニューヨークを拠点とするバーバーは、Vice Magazineのフォトエディターとして注目されました。その後、オンラインギャラリープラットフォーム 「tinyvices.com」を設立し、ライアン・マッギンレーやアリ・マルコポロスといった著名な写真家や新進気鋭のアーティストの作品を展示し、現代アートシーンに大きな影響を与えました。キュレーターとしての活動に加え、写真家としても活動しており、ファッション誌をはじめ様々な出版物で作品を発表している。

Instagram @timobarber
https://www.timbarber.us/


tinyvices.comが記録した20年の軌跡を辿る貴重な機会。東京は終了しているが、京都での展示は5月6日(水・祝)まで開催。ぜひお見逃しなく。

「TINYVICES ARCHIVE 20 YEAR ANNIVERSARY EXHIBITION」
会期 2026年4月11日(土)〜4月 19日(日)
会場 SO1
住所 東京都渋谷区神宮前6-14-15
時間 12:00〜19:00
Instagram @so1


TINYVICES ARCHIVE EXHIBITION
会期 2026年4月17日(金)~5月6日(水・祝)
会場 URBAN RESEARCH KYOTO
住所 京都府京都市中京区円福寺前町285
Instagram @ urbanresearch_kyoto
URBAN RESEARCH
Instagram @urban_research