TOWA TEIが、前作『AH!!』からわずか1年あまりで、14作目となるソロアルバム『ZAMBIENT』を完成させた。1990年にDeee-Liteのメンバーとして世界デビューして以来、ソロ、SWEET ROBOTS AGAINST THE MACHINE、METAFIVEなど、さまざまな名義やジャンルを横断してきたTOWA TEI。その活動は音楽を軸に、無印良品の店内音楽監修や『STAR WARS: VISIONS』の劇伴まで広がっている。
今回の『ZAMBIENT』でキーワードになるのが、「雑種アンビエント」を意味するその名前だ。ダンスとアンビエント、エキゾと電子音、理想とリアル。異なるものをきれいに整理するのではなく、むしろ混ぜてしまう。その結果として生まれるのは、繊細で静謐なアンビエントとは少し違う、タフで、可笑しく、どこか雑然とした音楽だ。
そして、その「混ぜる」という感覚は、AIとの付き合い方にもつながっている。AIに正解を出させるのではなく、ときには盛大に間違えさせ、予想外のアウトプットを面白がりながら制作に取り込んでいく。人間がAIを使う、という一方向の関係ではなく、間違いや偶然を含めて一緒に作っていく。その距離感は、ジャンルや世代、メディアの境界を軽々と越えてきたTOWA TEIの音楽そのものにも見える。
「雑種」という言葉のもとに、音楽とAI、偶然と意図、雑談と制作が混ざっていく。『ZAMBIENT』はいったいどこから生まれたのか。AIとの制作をめぐる話から、雑談と温泉、そして「雑種」という新たな旗を立てるまでの過程を訊いた。

「次はEPでいいや」から、また一枚のアルバムへ
——前作『AH!!』からわずか1年ちょっとでの新作発表に、驚いている人は多いと思います。
近年、自分の制作スピードが上がってようやく人並みになったのか、それとも1人でできちゃうことが増えたというか。前作を作り終えた時には、次回はEPみたいなサイズでいいやとも思ってたんです。もしくは、『AH!!』ってフィーチャリングで他のアーティストに参加してもらう曲が少なかった方なので、極端な話「次は全曲コラボにしようか」みたいなことをU-zhaanと話していたのも覚えているんですよ。彼とも「1曲やろうよ」と話していたんですけど、制作を進めていくうちに、結果的には今回もほとんど1人で作っちゃった。
——実際、今作はこれまで以上にゲストが少ない印象です。
「NOTHING ELSE 2」ではBoseにラップで参加してもらいました。それ以外だと、1曲目の「TOUCH」で聴こえるのはレコードからのサンプリングした声を使っていて。あとは「HEY!」で、バーベキューやってる時にいろんな人に「Hey!」って言ってもらった声を使っただけ。本当にゲストが少ないアルバムになっちゃいましたね。
——人間の関与が少なくなった、ということですか。
ツールとしてのAIの促進力がすごくて、スピードアップを手伝ってくれた。『AH!!』とは全然違う、AIとの関わり方、コミュニケーションでしたね。全面信頼はしないまでも、アシスタントとして使う。結局、最後に選ぶのは自分なんですけどね。だから意外と早くできちゃったという感じですかね。
——わずか1年ほどですが、その間でもAIの進化を感じていますか。
一番の推進力になっているのは、AIそのものよりも、AIを使ったチャンス・オペレーションだと思うんです。なんならそれは、AIを使う前からずっと一緒。「テイさん、またアルバム早いですね」って言われるんだけど、やっぱりチャンス・オペレーションに委ねていることが大きく起因してるんじゃないかな。ミュージシャンってキャリアを積むと「もっとうまくならなきゃ」「前作より速弾きできなきゃ」って考えてチャレンジしたりする。
でも僕は、今までやってることはすべて基本的には習作だと思ってるし、人生最後まで習作でいい。「こうあるべき」というよりは、予期せぬことが起きるのを待ってるんでしょうね。それが面白くてやっている。「こういうコンセプトのアルバムを作る」みたいな高みを設定しちゃうと、そこに持っていくまで5年10年かかっちゃうかもしれないけど、そういう人生には興味ない。1曲でも多く作った方が楽しいです。
——AIって、盛大に間違えた回答もよく出しますよね。
アイデア的なことを聞いても、返ってくるのは杓子定規というか、センスねえなって思いますけどね(笑)。まあ、そういう時にはちょっと安心したりもしてるんです。ああ、まだまだ僕がやろうとしてる音楽でAIに置き換えられちゃうことはないな、というか。
——だからこそ、アシスタントみたいに付き合えるんでしょうね。
そうですね。「こういうものを作りたい」という明快な意図や、緻密な設計図を描いてAIを使う人も多いと思うんですけど、僕はもっと雑です。サンプリングが流行り出した初期に、当時僕は「サンプリング」って言葉も知らなくて、ディレイ・マシーンの機能の「ホールド」としてやってましたけど、あの頃でも音楽業界では「ブレイクビーツのサンプリングでドラマーが廃業しちゃう」みたいなデモがあったりしました。だけど、ドラムマシンは増えたけどドラマーはいなくならなかったし、優秀なドラマーはこれからも仕事があると思う。そこはAIも同じだと思うんです。

——完成したアルバムをあらためて聴いて、どんな印象を持ちましたか。
レコードのテスト盤があがってきた時にあらためて聴いたんですけど、やっぱりこれは自分のアルバムと言えるなと思いましたね。まあ、それが当たり前なんですけど(笑)。“TOWA TEIのアルバム”って感じですよね。
——面白いのは、前作の方が生身のミュージシャンの参加は多いのに、今回の方がテイさん自身の生身はよりにじみ出ているように感じるんです。
前作はコラボ的な曲がB面にまとまってましたよね。今回も図らずして、A面とB面のカラーが違うんですよ。A面は割と濃い目で、B面の方がサラッとしてる。よりリラックスしている気がしました。僕は飽きっぽいんで、1曲ずつでも飽きちゃう。今日はアップテンポの曲をやったから、明日はビートの無い曲を録ろう、とか。そういう感じで毎日やってるから、アルバム後半に行くにつれて、そんな気持ちが出たんでしょうね。
——『ZAMBIENT』というアルバム・タイトルもすごいですよね。アンビエントの頭に「Z」を付けた言葉遊びですけど、いろんな深読みができる。
12枚目で一回りして、13枚目でまた「A」から始めたかったから『AH!!』にして。次でいきなり『ZAMBIENT』が降りてきた。アンビエントも聴きますけど、基本的には退屈な音楽が多いと思ってるんですよ。流しててちょうどいい音量で聴く、ミューザック的な付き合い方だと思うんですけど、僕が「ZAMBIENT」というワードを思いついたのは、もっと面白くて聴きたくなるようなアンビエント。やっぱりアンビエントってすごく繊細で脆くて儚い世界観だったり、純粋培養の無菌室で作られたようなシンセサイザー音楽を目指している人が多い印象がある。そうじゃなくて、とにかく雑菌を入れたかったんですよ。雑菌まみれのシンセサイザー・サンプリング・ミュージックをイメージしました。
——雑菌まみれのアンビエント!
自分がやってきたことは、ほとんどZAMBIENTだなと思ったんです。たぶん、Deee-Liteでのデビューからずっとそう。「Groove Is In The Heart」にしたって基本的にはループ音楽で、大きく分けると2セクションしかない。そこに歌が乗ってるだけです。ソロで最初に出したアルバムのタイトルを『FUTURE LISTENING!』にした時も、これから自分がやっていくことはそういうことだ、という宣言をしたい気持ちがあった。未だにそれはずっと自分なりにあるんですけど、今回の『ZAMBIENT』で、ようやく2つ目のカテゴリーが見つかった気がしてるんですよ。
前に作った『ZOUNDTRACKS』(2023年)も「Z」始まりですけど、あれは架空のサウンドトラックという意味だからちょっと違う。確かに、アンビエントに「Z」が付いただけだけど、雷に打たれたくらいのショックでした。ただ「Z」は、スタッフから「雑菌」より「雑種」の方がいいという提案があったので、そういうことにしました(笑)。
——では、あらためて「雑種」のアンビエント。
儚く脆いものよりも、タフなアンビエント・ミュージック。従来とは真逆で、そういう音楽はあんまりないと思う。オモロな音楽・イコール・ZAMBIENTって言えちゃうんで、相当幅広いですよね。「NOTHING ELSE 2」でBoseをラップに呼んだのも、ひさしぶりに雑談したかったからだし。予定してた120分のうちラップは20分で録り終えて、残り100分は雑談してました(笑)。そういう日々のオモロや興味を音に落とし込めたらいいな、と。だから、さらにチャンス・オペレーション重視になっていく。
——雑談もまた、もうひとつの「雑」ですよね。
ポップスってもっと「音楽ってこういうものだぞ」とか「こういう歌詞聴きたいでしょ?」みたいに、ちょっと強引なところがあるじゃないですか。「売れたい」とか「フェラーリ乗りたい」とか、人それぞれ邪念をはらんでいる。僕に邪念がないわけじゃないけど、それよりもっとパーソナルな「温泉入りたい」みたいなところで、自分の本能や生理にしたがって曲名をつけたり、音を作ったりしているのかな、という気はします。
——「THE SOURCE」も「温泉」由来の曲だそうですが、あの歌詞はどこから着想したんですか。
温泉の「源泉」っていう意味でもあるんです。「自分の源泉は何?」という意味では、以前、占い師に観てもらったときに「360回くらい生まれ変わってるよ」と言われたことをスタートポイントにして考えていったりね。たまたま360回と言われたところから、「12」という数字を思いついて。12ヶ月とか、十二支とか、そういうワードを取り留めもなく書いてAIに見せて、そこからいろんな言葉や発想が返ってきて、それを組み換えてAIに戻す、みたいなキャッチボールを何回かしました。AI以前だったら、12ヶ月、十二支くらいを思いついたところで終わってたかもしれない。でも今はAIとキャッチボールすることが推進力にもなって、歌詞に落とし込めた。
——信じ込むんじゃなくて、AIとキャッチボール。
AI相手だといろいろわかっちゃうわけだから、つまんなくなることは簡単なんです。だけど、面白がれることはまだある。自分では思いつかなかった違うアングルから言葉や音が返ってくることがある。やっぱり歳をとるってハードディスクと一緒で、受容体の部分が減ってきて、新しい感覚を取り込むことのほうが難しくなっていく。誰かとのコラボレーションも新鮮さをキープする手立てではあるけど、僕の場合はその相手がたまたまAIになっている部分がありますね。でも今はそれを過信せずに、どう「おもろい音」を引っ張ってくるか、という感じです。
——テイさんにとって「おもろい音」は、どこから生まれてくるのでしょうか。
スタジオに座ってシンセサイザーにまみれてても、「おもろい音」はなかなか出てこなかったりする。インプットが足りないんですよね。だから温泉を注入したり、富山に寿司を食べに行ったり、映画館で『マンダロリアン&グローグー』を観たりする(笑)。まあ、世の中の方がもう相当にZAMBIENTなんです。雑味にあふれてますよ。だから、だいぶトレンディなタイトルかもしれない(笑)。
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インタビュアー:松永良平
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TOWA TEI『ZAMBIENT』
アナログリリース:2026年8月21日(金)
配信リリース:2026年9月25日(金)
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